終身雇用が崩壊し、働き方の多様化が進んだ現代社会では、職業人生の舵取りを個人で行うことが求められています。
将来の予測を立てることが困難な時代において、キャリアコンサルタントは働く個人に伴走し、企業の組織強化を支援するキャリアコンサルティングの専門家としてニーズが高まっています。
一方で、独占業務を持っていないことや実務経験が重視されることから、「キャリアコンサルタント資格はやめとけ」「資格取っても意味が無い」と言われることもあり、不安になる人もいるのではないでしょうか。
本記事では、キャリコンサルタントの将来性やニーズについて解説していきますので、資格取得を検討している人は是非ご確認ください。
キャリアコンサルタントとは
キャリアコンサルタントは職業能力開発促進法によって規定された国家資格者のことを指します。
キャリアコンサルタントは「キャリアコンサルティングを行う専門家」と定義されており、キャリア支援が求められる様々な職場で活躍することが可能です。
以下はキャリアコンサルタントの主な活躍場所の一例です。
キャリアコンサルタントの主な活躍場所
- 企業内のキャリア相談室のキャリアコンサルタント
- ハローワーク内の職業相談員
- 転職エージェントや人材派遣会社等のキャリアアドバイザー
- 大学のキャリアセンターにおける相談員
- オンラインのキャリア相談員
キャリアコンサルタントの活躍場所は非常に多岐に渡りますが、そのキャリアに関する知識とカウンセリングスキルを活かして、相談者の課題解決を行う点が特徴です。
参照:厚生労働省「キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント」
国家資格登録者数は72,361人
キャリアコンサルタントはこれまでの経験や年齢に関係なく挑戦できることに加え、活躍分野が広いことから人気の国家資格となっています。
キャリアコンサルタントの国家資格登録者数は72,361人(2024年1月末時点)となっており、国家資格制度が開始された2016年から概ね右肩上がりで増え続けています。
名称独占の国家資格
キャリアコンサルタントは名称独占資格のため、国家試験に合格して登録をした人でなければ「キャリアコンサルタント」及び紛らわしい名称を名乗ることが出来ません。
そのため、キャリコン国家資格を取得することで、一定以上の信頼獲得が期待できます。
ただし、独占業務等は持っていない資格のため、キャリアコンサルティング業務をはじめ、キャリアコンサルタントが行う仕事は国家資格を持っていなくても出来る点には注意しておきましょう。
キャリアコンサルタントの現状
キャリアコンサルタントの将来性やニーズを考察するにあたり、現状の取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。
2022年に独立行政法人労働政策研究・研修機構で行われた「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」の情報を元に解説していきます。
参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」
主な活躍場所・就職先
前述したようにキャリアコンサルタントの活動場所は非常に多岐にわたりますが、実際の活動場所としてはどこで働いている人が多いのでしょうか。
以下は2022年の調査の際にアンケートに回答した人の「キャリアコンサルティングにおける主な活動場所」の回答内容となっています。
主な活動の場所 | 割合 |
---|---|
企業 | 32.6% |
教育機関(就職支援やキャリア教育) | 17.1% |
需給調整機関(人材派遣会社やハローワーク、転職エージェント等) | 13.5% |
地域支援(地域若者サポートステーション、女性センター等) | 5.3% |
その他 | 7.3% |
無し | 24.2% |
これを見ると、キャリアコンサルティングを行っている最も多い領域は「企業領域」となり、次に「教育機関」やハローワークや転職エージェント等の「需給調整機関」が続きます。
また、キャリアコンサルタント有資格者であっても、「無し」と回答した人が24.2%いることが分かります。
キャリアコンサルタントの年収
独立行政法人労働政策研究・研修機構によれば(2022年の調査)、キャリアコンサルタントの年収分布は以下の通りです。
年収 | 割合 |
---|---|
なし | 2.2% |
100万円未満 | 3.4% |
100~200万円未満 | 6.1% |
200~300万円未満 | 13.8% |
300~400万円未満 | 16.5% |
400~500万円未満 | 14.5% |
500~600万円未満 | 11.1% |
600~700万円未満 | 8.0% |
700~800万円未満 | 6.5% |
800~900万円未満 | 4.7% |
900~1,000万円未満 | 3.8% |
1,000~1,100万円未満 | 3.5% |
1,100~1,200万円未満 | 1.6% |
1,200~1,300万円未満 | 1.4% |
1,300~1,400万円未満 | 0.5% |
1,400~1,500万円未満 | 0.6% |
1,500~1,600万円未満 | 0.4% |
1,600~1,700万円未満 | 0.2% |
1,700~1,800万円未満 | 0.2% |
1,800~1,900万円未満 | 0.2% |
1,900~2,000万円未満 | 0.1% |
2,000万円以上 | 0.7% |
これを見ると、分布としては300~400万円の年収帯が最も多いことが分かります。
また、以下はアンケートに回答したキャリアコンサルタントの年収と、令和3年度に民間給与実態統計調査の結果を重ねたものになります。
これを見ると、キャリアコンサルタント資格を持っているからと言って特別に高年収というわけではないことが分かります。
ただし、年収500万円以上の割合はキャリアコンサルタント取得者の割合が高く、年収1,000万円以上の人も9.4%いることが分かります。
キャリアコンサルティングのみで生計を立てている人は?
キャリアコンサルタントの将来性を考えるにあたり、現在の有資格者がキャリアコンサルティングで生計をたてられているかを確認していきましょう。
生計状態 | 割合 |
---|---|
キャリアコンサルティングだけで生計を立てている | 20.4% |
キャリアコンサルティングで主に生計を立てている | 20.0% |
キャリアコンサルティンング以外で主に生計を立てている | 36.1% |
キャリアコンサルティング以外だけで生計を立てている | 23.4% |
上記の調査結果を見ると、キャリアコンサルティングのみで生計を立てているのは約2割程度にとどまっているようです。
また、生計状態として最も多いのは「キャリコン以外で主に生計を立てている」層が36.1%となっており、資格を持っていてもキャリアコンサルティング以外で主たる給与を得ていることが分かります。
キャリアコンサルタントの将来性
結論としては、今後もキャリアコンサルタントのニーズは今後も高く、将来性のある資格だと考えられます。
終身雇用制度が終わり、働き方や将来設計が多様化した現代では「キャリア」に関する関心が高まっており、個人のキャリアに伴走する「キャリアコンサルタント」への注目が高まっています。
キャリアコンサルタントの役割のひとつに「能力開発における相談に乗り、助言・指導を行うこと」があります。
国を上げて推進されているリスキリングにおいても、キャリアコンサルタントの活躍が期待されています。キャリア相談者の中長期的なキャリアを見据えたうえで「どんなスキルを身に付けるのか」を考え、資格やスキルの習得を支援することが求められています。
変化が激しく、働き方や価値観、求められるスキルの多様化と高度化が進む現代において、キャリアコンサルタントのニーズと担う役割は、ますます広がっていくと考えられます。
企業内キャリアコンサルティングの領域は拡大傾向
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」によれば、企業内で活動するキャリアコンサルタントの割合は上昇傾向となっています。
2006年 | 2010年 | 2013年 | 2017年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|
キャリコンの主な活動の場が「企業内」の割合 | 24.2% | 21.3% | 21.6% | 40.5% | 41.7% |
主なキャリアコンサルタントとしての活動場所を「企業内」と回答した割合は、2006年の24.2%と比較すると、2022年には回答者の41.7%と倍近くまで上昇していることが分かります。
このことから、企業内のキャリア支援領域のニーズが拡大傾向にあり、将来性も高いことが推測されます。
リモートワークの普及や副業の解禁、ジョブ型雇用の推進など、働き方の多様性が広がるに伴って、企業内でキャリアに伴走できる仕組みが求められていることが分かります。
副業キャリア支援領域に注目
現在のキャリアコンサルタントの活動方法としてポピュラーなのが「副業としてキャリアコンサルティングを行う」という方法です。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2022年)では、キャリアコンサルティングに関連する活動の専任・兼業の割合は以下の通りとなっています。
キャリアコンサルティングに関する活動 | 回答人数 | 割合 |
---|---|---|
専任・専業 | 2,041 | 38.3% |
兼任・兼業 | 3,292 | 61.7% |
上記を見ると、「兼任・兼業」でキャリアコンサルタントとして活動している人が多く、回答者の61.7%を占めることが分かっています。
キャリアコンサルタントのニーズ拡大に加え、リモートワークが普及したことで副業活動のハードルが下がったことも要因といえるでしょう。
キャリア相談の社会的な浸透に伴って市場規模が拡大することは予測されるため、オンラインキャリア相談は非常に将来性のある領域といえるでしょう。
ただし、人材紹介会社や人材派遣会社のキャリアアドバイザーとして活動する際には、契約内容次第では禁止されている「名義貸し」に該当してしまう可能性があるので、注意しておきましょう。
キャリアコンサルタントがキャリア相談をする上で役立つおすすめサービスはコチラの記事で紹介しているので、兼業を考えている人は是非ご確認ください。
キャリアコンサルタントはやめとけと言われる理由
キャリコンサルタントの将来性やニーズの拡大予測について解説してきましたが、一部では「キャリコン資格はやめとけ」「資格を取っても意味が無い」と言われることもあるようです。
キャリアコンサルタント資格を取得しても役に立たない、と言われる大きな理由としては「独占業務を持っていない」ことが挙げられます。
キャリアコンサルトはあくまで名称独占資格であり、社労士や行政書士のような「有資格者でないと出来ない業務」を持っていません。そのため、「資格取が仕事に直結しづらい」という理由から「キャリコン資格はやめとけ」という意見が出ることもあるようです。
確かに独占業務を持たない資格ではあるものの、有資格者が持つキャリアに関する知識やカウンセリング技法は市場価値が高いスキルだと考えています。求人サイトを見ると、キャリアコンサルタント資格保有を必須条件としている求人も増えてきているため、キャリアに関する専門的スキルの評価が高まっており、転職市場においても評価されるようになっていると感じます。
今後のキャリアコンサルタントに求められること
キャリコンの現状について解説してきましたが、ここでは「今後のキャリコンサルタントに求められること」について考えていきたいと思います。
凄まじい速度で変化する現代社会において、キャリアコンサルタントには常に「知識のアップデート」や「キャリアカウンセリング領域における自己研鑽」が求められます。
キャリアコンサルタントには5年毎の更新と、更新に必要な「知識講習」「技能講習」が必須となります。そのため、これらの自己研鑽は前提条件としたうえで、キャリアコンサルタントとし活躍するために必要になること、も止まられることについて解説していきます。
専門性に特化したキャリアコンサルティング
キャリア支援を行う上で、「専門領域持っているかどうか」は非常に重要な要素となります。
「強みを持った専門領域」はキャリアコンサルティングの質を向上させるだけではなく、個人で活動する際には集客に活かすことも可能となります。
専門領域の一例としては「特定の職種・業界」や「一定の年代(若年層・ミドルキャリア等)」に特化していることや、「年収アップに強い」「異業種転職に強みがある」等も考えられます。
キャリアコンサルタントには「どんな相談者にも対応できるスキル」が求められる反面、その中でも強みを持った領域を作ることで、より質の高いキャリコンサルティングを提供することが可能となります。
困難な相談内容への適切な対応
キャリアコンサルタントは時に「難しい相談内容」への対応が求められることも多々あります。
以下に「難しい相談」として回答が多かった相談内容の上位3つを抜粋しました。
難しい相談内容 | 回答人数 | 割合 |
---|---|---|
発達障害に関すること | 1,093人 | 20.5% |
メンタルヘルスに関すること | 946人 | 17.7% |
職場の人間関係に関すること | 708人 | 13.3% |
上表を見ると「発達障害に関する相談」「メンタルヘルスに関する相談」に対する相談への対応が難しいと感じているキャリアコンサルタントが多いことが分かります。
キャリアコンサルタントはその資格取得の過程でカウンセリングの基礎技能を学ぶものの、臨床心理学の分野は専門外の領域です。公認心理師や臨床心理士資格とWライセンスで活動している人であれば対応可能ですが、そうでない場合は本人同意のうえでリファー先を紹介する等の適切な対応が求められます。
リファー先の確保
キャリアコンサルタントとしてキャリア支援を行っていると、自身の専門外の領域における知識・スキルが求められる場合があります。
相談者本人は「キャリアにおける相談」だと考えていても、キャリアコンサルティングを進めていくとメンタルヘルスの課題が表出する場合も少なくありません。
その際には、無理に一人で対応するのは禁物です。医療機関などに適切にリファーを行うことが求められるため、一人で対応が困難なケースに備えてリファー先を確保しておくとよいでしょう。
キャリアコンサルタントになるには
キャリアコンサルタントになるためには、受験要件を満たしたうえで国家試験に合格し、キャリコンサルタント名簿に登録を行う必要があります。
ここでは資格資格の流れや試験の難易度、受験要件について解説していきます。
資格取得の流れ
前述したように、キャリアコンサルタントになるためには受験資格を満たしたうえで試験合格を目指す必要があります。
主な資格取得方法である「キャリアコンサルタント養成講座を修了して受験するルート」について、資格取得の流れの一例を以下に記載します。
- 試験の半年~1年前キャリアコンサルタント養成講座申し込み
厚生労働大臣が認定する講習(通称:キャリアコンサルタント養成講座)の受講申し込みを行う。
※実務経験が3年以上ある等の「キャリコン受験資格」を満たしている人は受講不要。 - 受講開始から3か月~半年キャリコン養成講座を受講して修了する
150時間に及ぶキャリアコンサルタント養成講座を受講し、修了する。
養成講座は「通信講座」と「通学・もしくはオンラインライブ講座」で構成されていることが多く、社会人でも無理なく受講可能。 - 試験の数か月前国家試験に受験申込
国家試験に受験申し込みを行う。
キャリアコンサルタント試験は基本的に年3回実施されるため、養成講座と試験対策のスケジュールを踏まえて申し込みを行う。※学科試験と実技試験を別々に受験することも可能。
- 講座修了~試験日試験当日に向けて学習
試験本番に向けて養成講座で学んだことを反復学習する。
実技試験の一つである「面接試験」については、有志の養成講座仲間とロープレ練習を行う場合も多い。 - 試験日キャリアコンサルタント試験本番
キャリコン試験は学科試験と実技試験(論述+面接試験)で構成されている。
学科試験と論述試験は同日に実施、面接試験は別日(受験生によって日程は異なる)に実施される。 - 試験の1か月~2か月後合格発表
試験の約1か月後に合格発表となる。学科・実技試験ともに合格であればキャリアコンサルタント名簿へ登録が可能。1科目のみ合格だった場合は、次回試験で合格科目が免除される。
>キャリコン合格発表日はコチラ - 合格証等の必要書類受理後キャリアコンサルタント名簿に登録
試験合格後、キャリアコンサルタント名簿に登録することで「キャリアコンサルタント」が名乗れるようになる。
※登録場所は「国家資格キャリアコンサルタントWEBサイト登録センター」で実施
上記はあくまで一般的な資格取得の流れの一例となります。
より短期で養成講座を修了することが出来るケースも有れば、国家試験を学科・実技試験と分けて受験する場合も有ります。自身の資格取得の目標や働き方に合わせて計画を立てるとよいでしょう。
キャリアコンサルタント資格の難易度
キャリアコンサルタントの資格取得は決して難しくありません。
例年の合格率は50~60%となっており、稀に50%を下回る難問回があるものの、試験難易度は高くないといえるでしょう。
キャリアコンサルタント試験は「キャリアコンサルティング協議会」「日本キャリア開発協会」の2団体で実施されています。試験団体によって論述試験の内容や面接試験の評価項目が異なりますが、試験の難易度に大きな違いはあないため、自身の通う養成講座が対応している試験団体で受験するとよいでしょう。
キャリコン資格の受験要件
キャリアコンサルタントは「厚生労働大臣の認定する講習(通称:キャリコン養成講座)の修了」もしくは「キャリアコンサルティングの実務経験3年以上」によって国家試験に挑戦することが出来ます。
キャリコンサルタントの主な受験要件
- キャリアコンサルタント養成講座の修了
- キャリアコンサルティングの実務経験3年以上
このことから、キャリアコンサルタント国家試験の受験生は、一定以上の知識やスキルを持った人材のみが挑戦できることが分かります。
キャリアコンサルタントの将来性まとめ
働き方の多様化と人材の流動化に伴い、個人から企業領域までキャリアコンサルタントのニーズは広く、かつ深くなっているといえます。そのため、キャリアコンサルタント資格を取得することで、将来性の高い領域で活躍することが可能です。
ただし、キャリアコンサルタントは独占業務を持っていないため、資格取得をするだけでは十分な活躍が出来るとは言えません。
将来性を見込める分野においてキャリアコンサルティングの専門性を高めることで、キャリアコンサルタントとして食いっぱぐれのない働き方が出来るといえるでしょう。
そのため、将来性を担保した働き方を実現するためには自己研鑽が必須となります。更新講習の受講はもとより、実務経験を積んでキャリアコンサルティング技能士取得を目指すなど、常にスキルアップが求められる国家資格といえるでしょう。