雇用の流動化や働き方の選択肢の多様化に伴い、ニーズが高まっている「キャリアコンサルタント」ですが、独立して食べていけるのか気になっている方が多いのではないでしょうか。
本記事では、キャリアコンサルタントとして独立する難しさや、フリーランスになる注意点について解説していきます。
キャリアコンサルタントは独立出来るのか
結論からお伝えすると、キャリアコンサルタント1本で独立して食べていくのは、難易度が高いといえます。
独立が難しい理由について、キャリアコンサルタントはまだまだ知名度が低いことに加え、独占業務を持っていないことが挙げられます(詳細については後述)。そのため、キャリアコンサルタントが持つ専門的なスキルや知識が求められる仕事であっても、法律上は無資格者が業務を行うことが可能です。
そのため、「キャリアコンサルタントとして」フリーランスになって独立するためには、資格以外に他者との差別化になるスキルや経験が必要になるといえます。
独立キャリアコンサルタントは約9%
労働政策研究所の調査によると、キャリアコンサルタントとして個人事業主やフリーランスとして活動している人は、キャリコン有資格者の約7.2%(下表参照)となっています。
また、「キャリコンとして会社経営・団体運営」を行っている人は1.8%となっており、合わせて約9%のキャリアコンサルタントが、キャリコンとして独立して活躍しているといえます。
キャリコン有資格者の主な就業先 | 割合 |
---|---|
正規雇用 | 51.9% |
非正規雇用 | 26.9% |
キャリコンとしてフリーランス・個人事業主 | 7.2% |
キャリコンとして会社経営・団体運営 | 1.8% |
キャリコン以外でフリー・自営 | 5.5% |
キャリアコンサルタントとしてボランティア | 1.2% |
キャリアコンサルタント以外でボランティア | 1.1% |
無職 | 4.4% |
参照:独立行政法人労働政策研究所「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」
フリーランスのキャリアコンサルタントは労働時間が短い
ただし、1週間の就業状況を見ると、キャリアコンサルタントとしてフリーランス・個人事業主の方は1週間の労働時間が「30時間未満」が45.3%と大部分を占めています。
以下の比較表を見ると、正規雇用のキャリアコンサルタントと比べると労働時間が著しく短いことが分かります。
1週間の就業時間 | 正規雇用 | キャリコンとして フリーランス・個人事業主 |
---|---|---|
30時間未満 | 3.0% | 45.3% |
30~35時間 | 3.1% | 13.9% |
35~40時間 | 14.8% | 15.4% |
40~45時間 | 34.7% | 9.0% |
45~50時間 | 22.5% | 5.7% |
50~55時間 | 11.6% | 1.3% |
55~60時間 | 4.2% | 0.4% |
60時間以上 | 5.2% | 2.6% |
なし | 0.9% | 6.6% |
参照:独立行政法人労働政策研究所「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」
フリーランスのキャリアコンサルタントの年収
では、結果的にフリーランスや個人事業主として活動しているキャリアコンサルタントは稼げているのでしょうか?以下のフリーランスのキャリアコンサルタントと正規雇用キャリコンの見込み個人年収の比較表を使って確認していきましょう。
年収 | 正規雇用 | キャリコンとして フリーランス・個人事業主 |
---|---|---|
無し | 0.6% | 1.6% |
100万円未満 | 0.3% | 11.5% |
100~200万円 | 0.7% | 16.8% |
200~300万円 | 4.8% | 22.5% |
300~400万円 | 12.1% | 16.5% |
400~500万円 | 14.2% | 11.5% |
500~600万円 | 14.8% | 7.3% |
600~700万円 | 12.1% | 4.0% |
700~800万円 | 10.6% | 2.6% |
800~900万円 | 7.7% | 1.6% |
900~1,000万円 | 6.4% | 0.9% |
1,000万円以上 | 15.9% | 3.2% |
参照:独立行政法人労働政策研究所「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」
これを見ると、キャリアコンサルタントとして活躍するフリーランス・個人事業主は年収300万円以下の割合が52.4%と約半数を占めており、日本の給与職者の平均年収458万円を下回る人が多いことが分かります。
フリーランスという働き方を選択したキャリアコンサルタントの就業時間数が短いことを合わせて考えると、年収よりも「働きやすさ」を求めて独立する人が多いことが推測できます。
キャリアコンサルタントの独立が難しい理由
フリーランスや個人事業主として活躍するキャリアコンサルタントの実態について、数字を用いて解説してきましたが、ではなぜキャリコンは独立が難しいのでしょうか?
キャリアコンサルタントの独立が難しい理由として、主に以下の2点が挙げられます。
キャリコンとして独立が難しい理由
- 独占業務が無い
- 集客が難しい
上記について、詳しく解説していきます。
独占業務が無い
キャリアコンサルタントの独立が難しい理由として、最もよく挙げられるのは「独占業務が無い」という点です。
キャリコンサルタントは2016年に国家資格化(能力開発促進法に規定)された「キャリアコンサルティングの専門家」です。ですが、名称独占資格ではあるものの、弁護士や社労士のような独占業務は持っていません。独占業務を持っていないが故に、キャリアコンサルティングは無資格者でも実施可能となっており、独立したとしても「資格の箔」のみでは仕事はほとんど得られないといえるでしょう。
集客が難しい
キャリアコンサルタントが独立しづらい要因のひとつとして、「集客が難しい」ことが挙げられます。転職が当たり前になった人生100年時代において、キャリア相談のニーズは年々高まっているといえますが、「キャリアの悩み」は「転職」と結びつきやすいため、転職エージェントや求人サイトが広告等を使って顕在化したニーズを刈り取ってしまう傾向にあります。
大手人材会社と個人がマーケティングで渡り合うことは現実的には難しく、潜在的なニーズが生まれた時点で相談予約をしてもらえるような戦略やブランディングが必要になるといえるでしょう。
キャリアコンサルタントはキャリアに関する理論やカウンセリングスキルが身につく、人材業界必見の資格ですが、独立しやすい資格ではありません。
キャリコンとして独立して食べていくには、転職エージェントや他のキャリコンにはない差別化やブランディングが必須となります。
キャリアコンサルタントが独立する場合の働き方
キャリアコンサルタントがフリーランスとして独立する場合、どのような仕事があるのでしょうか?代表的な仕事内容は以下の通りです。
キャリアコンサルタントが独立する場合の働き方
- キャリアコンサルティング(キャリア相談)を行う
- 企業向け研修を行う
- キャリアコンサルタント試験対策講座を開講する
- 有料職業紹介事業を立ち上げる
上記について、詳しく解説していきます。
キャリアコンサルティング(キャリア相談)を行う
キャリアコンサルタントのもっとも代表的な仕事は「キャリアコンサルティング(キャリア相談)」です。
キャリアコンサルティングはハローワークや人材派遣会社をはじめ、様々な機関で実施されていますが、フリーランスとしてキャリアコンサルティングを行うことも可能です。ただし、前述したようにキャリアコンサルタントの集客は難易度が高く、フリーランスとしてキャリアコンサルティング1本で食べていくのは難しいといえるでしょう。
仮に、月30万円の報酬を得たいと考えた場合、必要になる面談数の想定は以下の通りです。
上記を見ると分かるように、キャリア相談の料金設定を1時間3,000円に設定した場合、30万円の収入を得るためには100件のキャリア相談を行う必要があります。広告に多額の費用を使うことが出来る転職エージェントや、無料でキャリア相談が可能なハローワークがある中で、この件数の相談を得るのは非常に難易度が高いといえるでしょう。
ただし、1回の相談を1時間10,000円に設定すると、毎月必要なキャリアコンサルティングは30件でOKになります。ただし、1回の相談1万円は現在に相場と比較するとやや高めの設定のため、質の高いキャリアコンサルティングスキルがあることは大前提としつつ、その質の高さを伝えていくためのマーケティングが必要になるでしょう。
個人的には、キャリコン資格取得直後に独立するのではなく、転職エージェントや公共職業安定所等で経験を積んでスキルアップしたうえで、高単価・高品質なサービスの提供を目指すのがオススメです。
企業向け研修を行う
キャリアコンサルタントと親和性の高い仕事のひとつに、「研修講師」があります。キャリアの専門家としての知識や、カウンセリング・ファシリテーションスキルが活きる職業のため、キャリコンにとって人気の就職先のひとつといえるでしょう。
企業が社内向けに実施する研修の一部は外部の専門機関に委託することが多く、研修会社は多くのプロフェッショナル人材と業務委託契約を結んでいます。そのため、キャリアコンサルタントとして研修会社と契約を結ぶことで、フリーランスの企業向け研修講師として活躍することが可能です。
また、名前が売れてくれば、企業から直接研修案件を獲得することも可能になります。
ただし、研修講師としての経験が完全に未経験の場合は業務委託として仕事を受注するハードルは高いといえます。可能であれば、まずは正規・非正規問わず、研修会社の社員として経験を積むことがオススメです。
キャリアコンサルタント試験対策講座を開講する
キャリアコンサルタントは年齢や性別、これまでの職歴を問わずだれでも挑戦することが出来る、人気の国家資格です。そのため、毎年のべ1万人近い受験者が国家試験に挑戦しています。
キャリアコンサルタント資格を取得した知識と経験を活かし、フリーランスとして「試験対策講座を運営する」ことが働き方のひとつとして挙げられます。キャリアコンサルタント養成講座を運営するためには厚生労働大臣の認定を受ける必要があり、厳しいハードルを突破する必要がありますが、試験対策講座の場合は許可などは不要なので、誰でも始めることが可能です。
ただし、国家試験の対策講座は簡単に作れるものではなく、また、先行者利益が強い領域になるため、新規参入の場合は価格や質、マーケティング等、高いレベルの差別化が求められます。
キャリアコンサルタント試験対策講座を開講は、キャリコン養成講座の講師や、研修の講師をした経験があるに人にオススメの働き方となります!
転職エージェントを立ち上げる
キャリアコンサルタントとしての独立方法のひとつとして、「転職エージェント(人材紹介会社)を立ち上げる」ことが挙げられます。
転職エージェントは転職希望者に保有している求人の紹介を行い、採用されれば求人企業から紹介手数料を受け取れる成功報酬型のビジネスモデルです。紹介手数料の相場は採用者の想定年収の20~35%が相場となっています。仮に想定年収500万円の候補者が手数料率20%で採用が決まった場合、1件で100万円の紹介手数料(500万円×20%)を受け取ることが出来ます。
キャリア相談との相性がよい業態のため、転職エージェントを経験したことのある人は、独立の方法として検討する人も多いのではないでしょうか。
転職エージェントは法人だけではなく、実は個人事業主であっても立ち上げ可能な業態ですが、立ち上げる際には考慮しておくべき様々な注意点があります。代表的な注意点としては以下の通りです。
転職エージェントを立ち上げる注意点
- 500万円以上の資産が必要
- 求職者の集客が難しい
- 許認可事業のため毎年手続きが必要
転職エージェントは「有料職業紹介業」として国に許認可を受ける必要があります。そのための要件の一つの資産要件として、最低500万円以上が必要となり、個人が立ち上げるには高いハードルといえるでしょう。
また、立ち上げることは出来ても、人材不足が深刻な日本では求職者の集客にも非常に苦戦することが予測されます。そのため、「儲かるから」という理由だけで参入するのではなく、上記の注意点も加味したうえで転職エージェント立ち上げを検討するとよいでしょう。
参入障壁は比較的高いですが、転職エージェントの拠点立ち上げの経験がある人や、人材紹介というビジネスモデルに強い信念がある人にはオススメの独立方法といえます。
キャリアコンサルタント独立のコツ
ここまでお伝えしてきたように、キャリアコンサルタントとして独立するのは決して簡単ではありません。ここでは、独立するためのコツについて解説していきます。
キャリコン独立のコツ
- まずは副業としてはじめる
- キャリアコンサルタントとしての実力を身に付ける
- 個人のブランディングを育てる
まずは副業としてはじめる
キャリアコンサルタントとして独立を目指す場合、「まずは副業から始める」のが最もオススメです。
副業としてキャリアコンサルティング等を始めることで、実力を身に付けつつ、自身のブランディングを育てていくことが可能です。また、副業であれば最初から集客が上手くいかない場合でも、生活が困窮することはありません。
キャリアコンサルタントと相談者を繋ぐプラットフォームやクラウドソーシングサービスも増えてきているため、個人間のやり取りもスムーズに行うことが可能です。
加えて、リモート勤務が一般的になった現代では、オンラインによるコミュニケーションのハードルが下がり、キャリコンとしてもオンラインキャリア相談をやりやすい環境が整っているといえます。
キャリアコンサルタントとしての専門領域を作る
キャリアコンサルタントに最も重要な要素の一つとして、「専門領域の明確化」が挙げられます。
キャリアコンサルタントは非常に汎用性が高く、幅広いフィールドで活躍できる国家資格です。その反面、専門領域が明確になっていない場合は、依頼者がどんな相談をするべきか分からななくなってしまいます。
そのため、キャリアコンサルタントとして幅広い対応力を身に付けることと並行して、興味がある領域やこれまでの経験を活かした「得意ジャンル」「専門領域」を作り、磨いていくことが必要です。特定の領域において高い専門性を持ったキャリアコンサルタントは重宝され、ブランディング等にも活かしていくことが可能になるでしょう。
個人のブランディングを育てる
キャリアコンサルタントとして独立するためには、ブランディングが重要な要素となります。
キャリアコンサルティングは属人性の高いサービスのため、相談者は「誰に相談するか」を重視する傾向にあります。そのため、前述した「専門領域」を明確にすることに加え、自身が大切にしているポリシーや考え方、これまでの実績や顧客の声を積極的に発信していく必要があります。
個人のブランドが確立され、固定の顧客が増えれば独立も視野に入れていくことが可能となるでしょう。
キャリアコンサルタントの集客に役立つサービス
キャリアコンサルタントの独立が難しい理由の一つに「集客が難しい」ことをあげましたが、ここではキャリコンの集客に役立つ各種サービスをご紹介します。
「これを使えば必ず集客できる!」というものではなく、あくまでツールのひとつと考え、自身のキャリアコンサルタントとしての活動に役立つものを選択していきましょう。
キャリアバディ
キャリアバディは、キャリア専門家と相談者を繋ぐマッチングプラットフォームです。キャリアコンサルタントとして登録してプロフィールを作成することで、相談者からキャリア相談(オンライン)の予約を受けることが出来ます。
キャリアバディでは、主に以下のような機能を利用することが出来ます。
キャリアバディの主な機能
- プロフィールの作成
- キャリア相談のコースを作成(料金設定)
- 予約カレンダーの設定
- ビデオ通話機能
- メッセージ機能
- オンラインの決済機能
上記を見ると分かるように、キャリアバディではオンラインのキャリア相談に必要な機能を一通り利用することが可能です。また、キャリア相談の料金も自由に設定することが可能なため、自分で支援プログラムや利用料を決めたい人に特にオススメのサービスと言えるでしょう。
キャリコンサーチ
キャリコンサーチは、キャリアコンサルタントを探す人がキャリコンを探せる検索サービスです。
キャリコンサーチは厚生労働大臣指定登録機関である「キャリアコンサルティング協議会」が運営する公的なサービスであり、2024年3月末時点で6,429名のキャリアコンサルタントが登録しています。
特徴として、個人からの依頼だけではなく、キャリアコンサルタントを探している企業から依頼が入りやすい点が挙げられます。そのため、独立を目指す人はまずは登録しておいても損はないサービスと言えるでしょう。
ただし、キャリコンサーチ経由で仕事の受注につながったケースはあまり聞かず、独立を目指す場合には他サービスを組み合わせて活動する必要があるでしょう。
キャリコンサーチは登録キャリアコンサルタントが多い分、依頼が入り辛いのかもしれません。
かくいう私も、キャリコンサーチ経由では5年間で3件ほどしか問い合わせが入っていません。
X(Twitter)等のSNS
キャリアコンサルタントとしてブランディングを育てていく場合、SNSは非常に有効なツールといえます。特にX(旧Twitter)はテキストのやり取りを主体としたSNSのため、キャリアコンサルタントとしての意見・考え方や得意領域を発信する際に向いているといえるでしょう。
ただし、SNSは炎上リスクをはじめとしたデメリットもあるため、利用方法には注意して運用する必要があるでしょう。
キャリアコンサルタントの独立に関するよくある質問
最後に、キャリアコンサルタントの独立についてよくある質問について解説していきます。
- Qキャリアコンサルタントの資格を取れば独立出来ますか?
- A
キャリアコンサルタントは独立開業も目指すことが可能な資格ですが、資格を取っただけでは食べていくのは難しいといえます。
キャリアコンサルタントは名称独占の国家資格ではあるものの、独占業務はありません。そのため、独立するためには戦略をしっかり立てる必要があります。
- Qキャリアコンサルタントとして独立するにはどうすればいいですか?
- A
キャリアコンサルタントとして独立を目指す場合は、まずは副業としてキャリア支援の仕事をはじめるとよいでしょう。
副業キャリコンとしてスキルを磨きつつ、食べていける目途がついた後に、独立を検討する流れがオススメです。
- Qキャリアコンサルタントの顧客はどうやって集めればいいですか?
- A
最初はプラットフォームサービス等で集客をしつつ、個人の力で顧客を獲得できるようにHPを作成し、SNSを運用して顧客を集めるとよいでしょう。
キャリアコンサルタントの独立まとめ
キャリアコンサルタントは非常に幅広い分野で活躍できる資格ですが、資格だけでは独立をすることは困難です。キャリコンとして独立開業を目指す場合は、まずは副業として始めつつ、スキルや専門性を磨いていくのがよいでしょう。
自身のキャリアプランやライフスタイルに合わせて、「どこまで稼ぐか」「どのくらい働くのか」のバランスも考えつつ、独立の方法を模索していく流れがオススメです。