労働者の支援に関するスキルアップを検討している人であれば、キャリアコンサルタントと産業カウンセラーの資格について興味を持っている人は多いのではないでしょうか。
資格取得を通して得られるスキルや活躍領域に似た部分が多い「キャリアコンサルタント」「産業カウンセラー」資格について、どちらを取得すればいいか迷う人も多いようです。
本記事では、それぞれの資格の特徴や相違点について解説し、目的に合わせた取得すべき資格と理由について解説していきます。
産業カウンセラーとは
産業カウンセラーとは、心理学知識やカウンセリング技法を用いて、企業等で働く従業員のメンタルヘルスやキャリアに関する相談に乗る専門家です。
企業に所属して仕事をする従業員の中には、仕事内容や人間関係のストレス、異動や転勤に伴う環境変化による戸惑い等、様々な課題を抱えているケースがあります。産業カウンセラーは傾聴のスキルを駆使して従業員の悩みを聴き、課題解決を支援することで、健やかに働くことをサポートします。
産業カウンセラーは働く人の職業人生の支援することで産業社会に寄与することを使命としており、従業員の相談を受けるだけではなく、職場環境や人間関係改善のために組織への働きかけ等も行います。
参照:一般社団法人日本産業カウンセラー協会「産業カウンセラー養成講座」
産業カウンセラーの主な活躍場所
産業カウンセラーの主な勤務場所は以下の通りです。
産業カウンセラーの主な就職先
- 企業内のカウンセリング室
- オンラインカウンセリングサービスの企業
- 医療機関
- 福祉施設
産業カウンセラーの勤務場所として、ひと昔前は企業内のカウンセリング室等が一般的でしたが、現在はオンラインカウンセリングを提供する企業などに所属して活動する人も多いようです。
また、心の悩みを持った方の支援を行う医療機関や福祉施設の求人もあるため、産業カウンセラーは非常に広い分野で活躍することが出来る資格といえるでしょう。
産業カウンセラー試験の難易度と合格率
産業カウンセラー資格取得の難易度は決して高くありません。
産業カウンセラーになるためには、基本的には一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)が実施する「産業カウンセラー養成講座」を修了したうえで、試験に合格する必要があります。
2023年度の産業カウンセラー試験の合格率は以下表の通りです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
学科試験 | 954 | 637 | 66.8% |
実技試験 | 313 | 197 | 62.9% |
総合受験者 | 1,040 | 626 | 60.2% |
参照:日本産業カウンセラー協会「合否結果について」
上表を見ると分かるように、2023年度の産業カウンセラー試験の合格率は60.2%となっており、決して難しい試験ではないことが分かります。
※産業カウンセラー養成講座修了以外の受験資格はJAICO「産業カウンセラー試験」をご確認ください。
上位資格は「シニア産業カウンセラー」
産業カウンセラーには上位資格として「シニア産業カウンセラー」があります。
シニア産業カウンセラーは、産業カウンセラーの中でも専門家として高い能力を持ち、メンタルヘルス対策やキャリア支援、職場環境の改善に関する支援等に対応可能なカウンセラーを指します。
資格を取得するためには、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が運営する「シニア産業カウンセラー育成講座」を修了したうえで、試験に合格することで取得可能です。
カウンセラー求人に「シニア産業カウンセラー資格が必須条件」となっているものは多くありません。ですが、取得することで専門性の客観的な証明が可能になるため、カウンセラーとして活躍したい人におすすめの資格といえるでしょう。
産業カウンセラーと心理系資格の違い
心理系カウンセリングの代表資格として、産業カウンセラー以外に「公認心理師」「臨床心理士」の資格が挙げられます。
企業内のメンタルヘルスに特化した支援を行う産業カウンセラーに対し、公認心理師や臨床心理士はより広い領域において心理学知識とカウンセリングスキルを用いた支援を行います。
また、公認心理師は2017年に施行された「公認心理師法」によって国家資格になったため、就職・転職においてはより有利な資格といえるでしょう。
ただし、公認心理師や臨床心理士になるためには大学などの養成機関で指定の単位を修了する等の受験要件を満たす必要があり、ハードルが高いといえるでしょう。そのため、社会人からカウンセラーを目指す際には産業カウンセラー取得も選択肢として検討するとよいでしょう。

社会人からカウンセラーを目指す場合は産業カウンセラーがおすすめ!
「企業内」「産業分野」の活躍を目指す場合は産業カウンセラー資格がおすすめ
キャリアコンサルタント資格とは
キャリアコンサルタントは職業能力開発促進法に規定された人気の国家資格です。
キャリアコンサルタントは「キャリアコンサルティングを行う専門家」と定義されており、労働者の転職相談やライフキャリアプラン設計の支援、能力開発に関する相談に乗り、助言や指導を行うことが出来ます。
独占業務は持たない国家資格ではあるものの、その高い専門性を活かして職業紹介事業所や大学のキャリアセンターなど、非常に幅広いフィールドで活躍できる資格です。
キャリアコンサルタントの主な活躍場所
キャリアコンサルタントは多くの人にとって重要度の高い「キャリア」の専門家のため、様々な企業や公的機関で活躍可能な資格です。
キャリアコンサルタントの主な就職先・活躍場所は以下の通りです。
キャリアコンサルタントの主な活躍場所の一例
- 人材派遣会社
- 転職エージェント
- 大学のキャリアセンター
- 企業内キャリア相談室
- 福祉施設の就職支援員
- 副業でオンラインキャリアカウンセリング
キャリアコンサルタントの代表的な就職先としては「人材派遣会社」「転職エージェント」です。求職者へキャリア相談や職業紹介を行う「キャリアアドバイザー」と呼ばれる職種はキャリアコンサルタント資格と相性がよく、資格取得の過程で得た知識とスキルをいかせる職業といえるでしょう。
他にも大学のキャリアセンターにおける相談員や、副業でオンラインキャリアカウンセリングを行うなど、キャリアコンサルタントは非常に多種多様なフィールドで活躍できる資格といえるでしょう。

キャリアコンサルタントは独占業務を持たない国家資格ですが、その反面、活躍できる領域は物凄く広い点が特徴といえます!
キャリアコンサルタント試験の難易度と合格率
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キャリアコンサルタントは決して取得が難しい国家資格ではありません。
キャリアコンサルタント国家試験は学科試験と実技試験(論述試験+面接試験)で構成されており、同時に受験した人の合格率は約45~60%(下表参照)を推移しており、そこまで難易度の高くない試験であることが分かります。
学科・実技試験同時受験者数 | 学科・実技試験同時受験合格者数 | 学科・実技試験同時受験合格率 | |
---|---|---|---|
第15回 | 5,148 | 2,849 | 55.3% |
第16回 | 3,337 | 1,670 | 50.0% |
第17回 | 2,910 | 1,260 | 43.3% |
第18回 | 3,638 | 2,187 | 60.1% |
第19回 | 3,697 | 1,795 | 48.6% |
第20回 | 3,073 | 1,686 | 54.9% |
第21回 | 3,489 | 1,637 | 46.9% |
第22回 | 3,942 | 2,338 | 59.3% |
第23回 | 3,220 | 1,955 | 60.7% |
第24回 | 3,757 | 1,704 | 45.4% |
ただし、キャリアコンサルティングの実務経験が3年以上ない人は、国家試験に挑戦するためには厚生労働大臣が認定する講習(通称:キャリアコンサルタント養成講座)を修了する必要があります。
そのため、国家試験そのものは決して難しくないものの、受験のためには養成講座に通ってしっかりと知識とスキルを学んだうえで受験する必要があります。
上位資格は「キャリアコンサルティング技能士」
キャリアコンサルタントの上位資格として「キャリアコンサルティング技能士」があります。
キャリアコンサルティング技能士には1級・2級の検定があり、合格者はそれぞれ「指導者レベル」「熟練レベル」と位置付けられ、「標準レベル」と定義されている国家資格キャリアコンサルタントの上級資格とされています。
資格・技能検定 | スキルの基準 | 資格取得難易度 |
---|---|---|
キャリアコンサルティング技能士1級 | 指導者レベル | かなり難しい |
キャリアコンサルティング技能士2級 | 熟練レベル | 難しい |
キャリアコンサルタント国家資格 | 標準レベル | 普通 |
キャリアコンサルティング技能士には国家資格キャリコンと同様に独占業務等はありませんが、取得することで知識とスキルの証明になるため、キャリアアップに活かすことが可能です。
また、技能検定に合格することで、キャリアコンサルタント資格更新に必要な更新講習が一度だけ免除を受けることが出来ます。
キャリアコンサルティング技能士を取得することでスキルの客観的証明が可能
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの違いと共通点
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントはどちらも「労働者を対象」に「キャリアに関する相談に乗る」資格という点に共通点があります。
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントは共通点も多く、「どちらを取得すればよいか分からない」という人も多いようです。
そこで、産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの資格について、相違点と共通点を詳しく解説していきます。

キャリアコンサルタントと産業カウンセラーは混合されがちな資格ですが、相違点をしっかり確認して、自身が取得すべき資格を確認していきましょう!
専門領域の違い
産業カウンセラーはメンタルヘルス領域までサポートできることに対し、キャリアコンサルタントはメンタルに課題を抱えた相談者への対応は専門ではありません。
キャリアコンサルタントはあくまで「キャリアコンサルティングの専門家」であり、そのために必要な心理学やキャリア理論に関する知識、カウンセリングに関する技法を身に付けています。
そのため、「労働者のメンタルヘルスに関する仕事がしたい」と考えている人であれば産業カウンセラー、「キャリアに関する課題解決がしたい」という人はキャリアコンサルタントを目指すとよいでしょう。
産業カウンセラーはメンタル領域に強い!
資格の種類の違い
国家資格であるキャリアコンサルタントに対し、産業カウンセラーは一般社団法人産業カウンセラー協会が認定する民間資格です。
そのため、産業カウンセラーは広く認知された資格ではあるものの、資格の信頼性としてはキャリアコンサルタントの方が高いといえるでしょう。
ただし、産業カウンセラーはその知名度と実績から求人の資格要件に記載されることも多く、働きたい仕事によって取得する資格を選ぶとよいでしょう。
活躍フィールドの違い
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントは、どちらも「労働者のキャリア相談」に乗る点では同じですが、専門性の違いから活躍フィールドはやや異なっています。
企業内のカウンセリング室や医療機関のカウンセラー職として働ける産業カウンセラーに対し、キャリアコンサルタントは大学のキャリアセンターや転職エージェント等、「キャリアの選択」に関する求人が多い点が特徴といえるでしょう。
産業カウンセラーは心理分野、キャリアコンサルタントはより広いキャリア形成に関する分野に強い点が相違点といえるでしょう。
どちらも独占業務は無い
キャリコンは名称独占の国家資格ですが独占業務は持っていません。そのため、キャリアコンサルティング業務は無資格者でも実施することが可能です。
産業カウンセラーについても同様で独占業務等は無く、資格を取得することで「必ず就職出来るというわけではない」という点に注意しておきましょう。
そのため、キャリアコンサルタント・産業カウンセラーはどちらも資格取得の過程で学んだ知識とスキルを活かして実務経験を積み、徐々にスキルアップしていく必要があるでしょう。
キャリアコンサルタントも産業カウンセラーも重要なのはスキルと実務経験
試験を受けるために基本的に養成講座修了が必要な点は同じ
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの共通点として、資格取得のためには基本的に「養成講座を修了する必要がある」という点です。
養成講座 | 受講料(税込) |
---|---|
産業カウンセラー養成講座 | 352,000円 |
キャリアコンサルタント養成講座 | 30万円~45万円 ※スクールにより異なる |
参照:JAICO「産業カウンセラー養成講座」
どちらの養成講座も30万円以上の受講料が必要となるため、取得する資格は目的に合わせて慎重に選ぶ必要があります。
なお、産業カウンセラー養成講座はJAICO(一般社団法人日本産業カウンセラー協会)にて実施されていますが、キャリアコンサルタント養成講座は非常に様々なスクールで開講されています。
キャリアコンサルタント養成講座のスクールによっては、最大で受講料の70%が戻ってくる「専門実践教育訓練給付金」が利用できるため、経済的負担は抑えて受講することが可能といえるでしょう。
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントどちらを取得すべきか
本記事では産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの違いや共通点について解説してきましたが、結論としてはどちらの資格を目指すべきなのでしょうか?
それぞれの資格がおすすめな人について解説していきます。
産業カウンセラー資格取得がおすすめな人
産業カウンセラーの資格取得がおすすめな人は以下の通りです。
産業カウンセラーの資格がおすすめな人
- 心理カウンセリングの領域で活動したい人
- メンタルヘルスに関する課題解決をしたい人
- 社会人からカウンセラーを目指したい人
産業カウンセラーはその名の通り「カウンセリング」に専門性を持っており、傾聴スキルを活かしたメンタルヘルスの問題への対応が専門領域となります。そのため、「心理領域で活躍したい」という人におすすめの資格となっています。
ただし、心理カウンセリングに活かせる資格としては他にも「臨床心理士」や、国家資格である「公認心理師」等があるので、目的に合わせて取得する資格を選択するとよいでしょう。
キャリアコンサルタント資格取得がおすすめな人
それでは、産業カウンセラーではなくキャリアコンサルタントの資格取得が向いている人はどのような人でしょうか。キャリコン資格の取得が向いている人は以下の通りです。
キャリアコンサルタントの資格がおすすめな人
- 大学のキャリアセンター等で就職支援をしたい人
- 転職エージェントや人材派遣会社では働きたい人
- ハローワーク等の公的職業紹介機関で相談員をしたい人
- 高給与を目指したい人
- 副業で稼ぎたい人
キャリアコンサルタント資格の守備範囲は広く、職業紹介から有料のキャリア相談まで幅広いサービスで活躍可能な資格です。
産業カウンセラーと比較すると、特に「キャリアカウンセリング」に専門領域を持つ資格です。そのため、キャリア支援やスキルアップの支援をしたいと考えている人にピッタリの資格です。
また、歩合給の割合が大きい転職エージェント等で働く場合は、成果が給与に反映されやすく、キャリアコンサルティングのスキルを活かして高給与を目指すことも可能です。
一般社団法人日本産業カウンセラー協会ではキャリコン養成講座も実施
産業カウンセラーの養成を行っているJAICO(日本産業カウンセラー協会)では、実はキャリアコンサルタント養成講座も開講しています。
JAICOのキャリアコンサルタント養成講座は産業カウンセラー育成のノウハウを活かし、「傾聴」を重視したカウンセリングスキルを身に付けることが可能です。メンタルヘルス対応にも役立つ知識も学ぶことが出来るため、「傾聴スキルを学びたい」「心理課題に強いキャリアコンサルタントになりたい」と考えている人には特におすすめの養成講座となっています。
キャリアコンサルタントと産業カウンセラー資格に関するよくある質問
- Q産業カウンセラーは国家資格ですか?
- A
産業カウンセラーは国家資格ではありません。
以前は旧労働省が認定する技能審査でしたが、2001年を最後に除外され、現在は民間資格となっています。
- Qキャリアコンサルタントと産業カウンセラーの違いは何ですか?
- A
キャリアコンサルタントは国家資格、産業カウンセラーは民間資格であり、資格の種類に違いがあります。
- Qキャリアコンサルタントと産業カウンセラーの取得難易度はどちらが簡単ですか?
- A
どちらの資格も取得難易度に大きな違いはありません。
キャリアコンサルタントと産業カウンセラーも、原則「養成講座を修了」したうえで試験に合格する必要があります。
試験の合格率は概ね以下の通りです。
- キャリアコンサルタント:45~60%
- 産業カウンセラー:60%前後
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの違いまとめ
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントは共通点が多いですが、専門領域や強み、活躍フィールドは異なる資格です。
どちらも独占業務を持たない資格ですが、養成講座で得られる専門的知識とカウンセリングスキルを活かして、様々な職場で活躍可能です。
自身のスキルアップの目的に合わせて、最適な資格はどちらかを考えて取得資格を選びましょう!