この記事では、人材紹介会社に勤務している方、特に求職者の方と直接お話しするCA(キャリアアドバイザー)と呼ばれる方にオススメのカウンセリング技術である「来談者中心カウンセリング」についてご紹介させて頂きます。
キャリアカウンセリングと人材紹介の現状について
人材紹介会社では、自社に登録してくれた求職者の方の就職希望条件を確認した上で、それに合うような求人情報を提供して、職業紹介を進めるというケースが一般的だと思います。
つまり、一般的には以下の流れで面談を行います。
一般的な職業紹介の流れ
- 求職者の希望をヒアリング
- 求人情報を提供
- 希望する求人への応募
- 応募先で書類選考
- 書類選考に通れば面接
- 採用
この流れは決して間違っているわけではありません。しかし、このフローに対してのみKPIを設定して数字を追いかけ続けることは、必ずしも効率的ではありません。
質の高い職業紹介・転職支援を行っていくためには、カウンセリング技術を磨くことが必要だと考えています。
私は、より良い職業紹介(人材紹介)は以下の3者が納得する必要があると考えています。
- 仕事を探している求職者(転職希望者)
- 人材を探している求人者
- 人材紹介事業者
そのためにキャリアアドバイザーに求められることとして、以下の2点が挙げられます。
より良い職業紹介のためにキャリアアドバイザーに求められること
- 相手の役に立つ支援をすること
- ひとりよがりにならない支援をすること
残念ながら、日々接する転職市場の声を聴く限りは「ひとりよがりの支援」をしてしまっている人材紹介事業者・キャリアアドバイザーも多くいるようです。
では、なぜ「ひとりよがりの支援」は生まれていたのでしょうか?
パオ助のひとりよがり転職エージェント時代
白状すると、わたくしパオ助も「ひとりよがりの転職支援」を行っている時代がありました。
どういう部分が一人よがりだったかというと、売上のことが頭から離れず、求職者の方の話を聞いていても頭の片隅ではそろばんを弾いてしまっている、という状態でした。
もちろん、そんな状態では実際に売り上げが上がるはずもなく、転職希望者の役に立てない歯がゆさと、しょぼい売り上げで社内での肩身の狭さを感じる転職エージェント新人時代を過ごしておりました。
今思えば、転職希望者の方の心に寄り添えず、そのため転職希望者自身でも気づいていない本音を引き出すこともできず、良い転職支援とは無縁だったと思います。
そんな時に出会ったのが「来談者中心カウンセリング」であり、私がカウンセリング技術の向上に興味を持ったキッカケとなりました。
前置きが長くなってしまいましたが、ひとりよがりではなく真に求職者の支援をするために役立つカウンセリング理論を、私の実体験を交えて解説していきます。
来談者中心カウンセリングとは
今回ご紹介するのが「来談者中心カウンセリング(パーソンセンタードアプローチ)」です。
私個人としては、このカウンセリング理論に出会って衝撃を受け、それ以降の自身の転職支援における面談の考え方が大きく変わりました。また、今でも影響を受け続けている考え方です。
来談者中心カウンセリングは、カウンセラーや心理療法家を目指す人のみならず、あらゆる支援・相談職の方が学ぶカウンセリング理論です。
カール・ロジャーズが提唱したカウンセリング理論で、カウンセリングにおける基本的な考え方・姿勢や態度を示したものなので、あらゆる支援職の方にオススメです。
その名の通り、来談者(ここでは求職者・転職希望者)を中心に考える、人間中心に考えるカウンセリング理論で、非常に学びの多い考え方です。
人材紹介・職業紹介においては、求職者との信頼関係を構築し、求職者自身でも気づいていない、もしくは言語化できていない想いに触れ、本当の意味で求職者のキャリア形成支援をしていくために必須のカウンセリング理論となります。
私もまだまだ学習の途上にいるため、できれば書籍を購入したうえで学習をしてほしいのですが、より興味を持っていただくために、今回はカール・ロジャーズの理論を支える「中核3条件」について簡単にご紹介させていただきます。
共感的理解
中核3条件の一つ、それは「共感的理解」です。「共感」と聞くとなじみのある言葉だと思いますが、ロジャースの来談者中心カウンセリングにはこう表現されています。
- セラピストは、クライアントの内的照合枠を共感的に理解しており、この体験をクライアントに伝えようと努めていること
- セラピストの共感的理解が最低限クライアントへ伝わっていること
これを職業紹介の場面に言い換えると、下記のようになります。
- CAは、求職者(転職希望者)の内的照合枠を共感的に理解しており、この体験をクライアントに伝えようと努めていること
- CAの共感的理解が最低限、求職者(転職希望者へ伝わっていること)
「共感」と私が最初に聞いたときは「分かるわかる~!」と言っておけば良いのかな?と思いましたが、ここでいう共感的理解とは全く違います。
私たちは、自分自身を通してあらゆることを体験しており、同じ場所で同じシチュエーションにあっても、人によって感じていることは違います。それは転職希望者・転職相談者も同じで、1000人の相談者がいれば1000人の体験・感じ方があります。
その意味で完全な共感は不可能といえるのかもしれません。
それでも、「相談者の感覚で相談者の感情・経験を理解して」「それを伝えていく・確認していく」というのが共感的理解です。
個人的には中核三条件の中で「最もトレーニングで身につけやすい」考え方だと思っています。
これが出来るようになると、求職者の本音を知れるようになるだけでなく、自然と求職者との間に信頼関係が構築され、より求職者にとって価値のある転職支援をすることが出来ます。
無条件の肯定的関心(受容)
中核3条件の2つ目は「無条件の肯定的関心」です。
これは、カウンセラーの態度として最も重要なものの一つで、一般的には「受容」と表現されることが多いです。
受容と聞くと簡単に聞こえるかもしれませんが、「無条件の肯定的関心」が示す受容は、分解すると下記のようになります。
- 受容に条件がないこと(~~だから受容するしないではない)
- 評価的な態度をとらない(評価しない)
- 相談者の「良い」「ポジティブ」な点と同様に、「悪い」「ネガティブ」な感情も受容する
- 無条件の肯定的関心を伝えようと努め、最低限、相談者に伝わっている
いかがでしょうか。
これを聞くと、難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
無条件の肯定的関心は、実は「完全な無条件の肯定的関心は存在しない」といわれるほど、容易にはできないものです。
しかし、カウンセラーの無条件の肯定的関心がなされるほど、相談者(求職者)の心的安全性が保たれ、安心して本音を話してもらうことが可能になります。
ここで、実際の転職相談の場面での私の失敗事例をお伝えさせていただきます。
私は、CA(キャリアアドバイザー)として求職者の方々と面談していて「何か本音が聞けないな~」と感じるときは、主に下記のような状態でした。
【パオ助失敗例】
- 求職者の転職条件の難易度が高い→ムッとしちゃう
- 求人企業に紹介できるか出来るか?で内心好き嫌いが存在している
- 求人者に紹介するうえで有利な発言していれば露骨に喜んでしまう
いかがでしょうか・・・。
カウンセリング理論を学ぶ以前の私は、「無条件の肯定的関心」をまったく求職者に向けることが出来ませんでした。
これでは、相談に来た求職者は全く安心して話すことは出来ないですし、私の態度に合わせて無理にポジティブなことばかり話さないといけなくなった求職者もいらっしゃたかもしれません。
CA(キャリアアドバイザー)が無条件の肯定的関心を求職者に向けられていない場合、求職者が「転職やキャリアにおける本音」を話すことは出来ません。
この「無条件の肯定的関心」が徹底されていた場合、求職者はどんな内容でもしっかりと本音をキャリアアドバイザーに伝えることが可能になり、結果的に、より良い転職活動に繋げていくことが出来るようになります。
自己一致(純粋性)
来談者中心カウンセリング中核3条件の最後の一つは「自己一致」です。
自己一致については、様々な説明・解釈があり、勉強中の見の私では分かりやすくお伝えする自信はありません。
なので、私が理解している範囲の解説をさせていただきます。
自己一致は「純粋性」とも言い換えられ、下記のように説明できると思います。
- CAが自身の感情を歪曲することなく、ありのままの自分を受け入れ、必要であれば求職者に伝えている
- CAが感じていることと、求職者に対する言葉や態度が一致していること
いかがでしょうか?
超~簡潔に言うと、求職者に対する自分自身の感情と、言葉や態度が矛盾していない状態が、「自己一致している状態」だと考えております。
キャリアカウンセリングにおいては、来談者中心カウンセリングの中核三条件の3つすべてが揃った態度が求められます。
つまり、しっかりと受容・共感の態度を示しつつ、その態度が純粋に自身の心から出来ている必要があります。
私は頭では分かっていても滅茶苦茶苦労しました。口先だけで受容・共感をしていても、心のどこかでは求職者に否定的な感情を持ってしまうケースも多々あり、来談者中心カウンセリングを学んで実践を通していく中で、「自分自身と向き合う」ことを余儀なくされる考え方でした。
来談者中心カウンセリングは単純なテクニックではなく、相談・支援を行う上で土台となる自身の考え方をはぐくんでいく力のあるカウンセリング理論です。
そのため、習得は困難で(私もまだまだ出来ておりません)、常に学習と実践を通して磨き続けていかないといけない考え方だと思います。
カウンセリング技術を高めるなら、キャリアコンサルタント資格がオススメ!
今回はキャリアカウンセリングで役立つ「来談者中心カウンセリング」をご紹介させていただきました。
キャリアアドバイザーとして活躍するためには、担当業界や雇用・採用市場の動向だけでなく、キャリア理論やカウンセリング理論・技法を学んでいく必要があります。
人材紹介をはじめとした人材業界は様々な人が活躍していますが、KPI管理以外に体系化された技術や考え方は少なく、「転職希望者・相談者にどんな価値を提供できるか?」が「どんなキャリアアドバイザーが担当するか?」次第になっているという人材紹介会社が少なくありません。
対人支援の仕事である以上、ある程度の属人性が生まれてしまうことは必ずしも悪ではありませんが、それでも人材業界全体で質の底上げが必要だと考えています。
キャリアコンサルタント資格は、資格取得の過程で来談者中心カウンセリングをはじめとした様々なカウンセリング技法やキャリア理論を体系的に学ぶことが出来ます。
人材紹介会社として、より体系的に職業紹介の質を上げていくためには、キャリアコンサルタント資格を積極的に取得していきましょう!
(ていうか人材業界の人は全員取りましょう!)