突然ですが、「セルフ・キャリアドック」という言葉をご存知でしょうか?
近年、IT化の加速や国際競争の激化、そして従業員の働き方の多様化に伴い、企業はビジネスモデルや社内体質の大胆な変化を求められています。
また、現在の日本では終身雇用制度は崩壊したといわれ、企業が新卒から定年まで従業員のキャリアに責任をもつ時代は終わり、労働者一人一人が自分自身のキャリアと向き合って生きていかぬばならない時代へと変化しています。
そのような時代においては、従業員一人一人が社会や組織の変化を先取りする形で変革に対応し、持てる力を最大限に発揮していくために、自ら主体的にキャリアを考え構築していく必要があります。
「セルフ・キャリアドック」 とは、そのために非常に有効なキャリアコンサルティングを活用した仕組みのことです。
セルフ・キャリアドックとは?
キャリアコンサルティングと研修などを組み合わせて行う、従業員のキャリア形成を促進・支援することを目的とした総合的な取組みのことです。
キャリアコンサルティングの実施
キャリアコンサルティングとは、従業員とキャリアコンサルタントが一対一で行う面談のことです。
キャリア理論やカウンセリング技法に基づき、従業員の心理的な自己洞察を促し、従業員のキャリア形成の方法を検討する場となります。
キャリアコンサルティングにおいては、従業員のこれまでの職務経験の棚卸しを行い、求められる役割や責任、仕事に対する期待や不安などの確認を行います。
現在の仕事に不安や問題を抱えているケースでは、問題点を整理したうえで解決を支援していきます。
キャリア研修の実施
1対1のキャリアコンサルティングに先立ち、
- キャリアの棚卸し
- 目標やアクションプランの作成
などを行ってもらうために、集合形式のキャリア研修を行うことで、より効率的に従業員への理解を広げることが可能です。
また、対象従業員を属性に応じてグループ分けしたうえでワークなどを行うと、より効果的なキャリア研修が可能です。
セルフ・キャリアドックの導入で期待されること
セルフ・キャリアドックを導入することで、企業としてはどんな事が期待されるのでしょうか。
各従業員に対しては、仕事を通じた継続的な成長を促し、働くことの満足度の向上につながります。
これは、キャリアコンサルティングを通して、キャリアの目標を明確化し、仕事の目的意識を高め、計画的な能力開発に取り組むことによって得られる効果といえます。
また、セルフ・キャリアドックの導入は企業にとっても大きなメリットがあります。
人材の定着(離職率の低下)や従業員の就労意識向上が、組織の活性化につながり、生産性の向上などにより競争力の強化が期待できます。
また、介護職や看護師のように「離職率が高く人材確保が難しい」といわれる専門職を多く雇用する介護施設や病院にも特におすすめの仕組みです。
また、労働者の属性別に見ると以下のような効果が期待できます。
新卒採用者の離職率低下(定着率向上)
新卒採用者へのリアリティショックや働く作法を含めた定着支援・働き方支援がセルフ・キャリアドックの重要な役割の一つとなります。セルフ・キャリアドックにより、職場への定着や仕事への意欲を高めていくことが期待されます。
新卒社員の3年以内離職率は大卒で約3割に上るため、セルフ・キャリアドックによる定着支援が実現できれば企業にとっても大きなメリットがあります。
育児・介護休業者の職場復帰率向上
育児・介護休業者の職場復帰をスムーズに行えるようにすることも、セルフ・キャリアドックの役割の一つです。
育児・介護休業者の抱える不安に対する課題解決の支援を行い、プランを作成することで、職場復帰を円滑に進めることが出来ます。
中堅社員のモチベーション向上
中堅職員の活性化を行うことも、セルフ・キャリアドックの重要な役割の一つとなります。
従来の年功序列形式の人事制度が変革され、管理職に昇進しない従業員が著しく増加する傾向が生じています。この変化に、組織の人事施策や労働者個人の働くマインドが充分に対応しきれず、中堅社員のモチベーションが低下が見られています。
セルフ・キャリアドックは、中堅社員に対し、自己の持つ多様な能力を棚卸しし、その能力の発揮することをキャリアコンサルティングを通して支援を行います。それにより、モチベーションの維持・向上を図る支援策となります。
高年齢社員の活性化
現在、現役の期間が長期化し、定年後も働き続けたいというシニア社員が増加しています。
セルフ・キャリアドックでは、キャリアコンサルティングを通して職業能力や適性といった個々人が保有する多様な力への自己理解を深め、ライフキャリアの後半戦~セカンドキャリアに向けて、積極的な職業生活を設計していくことが期待されます。
また、上司や管理職として抱えている課題の解決も支援することで、高年齢社員(シニア社員)の活性化につなげます。
セルフ・キャリアドック導入のためのプロセス
セルフ・キャリアドックを導入するためには、何が必要になるのでしょうか。
セルフキャリアドックの導入・実施のプロセスは以下の通りです。
標準的なプロセスとしては上記のとおりですが、企業・組織によりプロセスの統合や細分化を行うことも必要になると考えられます。
上記を踏まえ、セルフ・キャリアドックを行うために必要なことを解説します。
経営者・現場管理職のコミットメント
経営者・管理者には、職業能力開発促進法で規定された従業員に対するキャリアコンサルティングの機会の確保を、セルフ・キャリアドックの仕組みの具体化により明確化し、社内(全従業員)に対して各社の適切な形で明示・宣言することが求められます。
社内の環境整備
セルフ・キャリアドックの導入のためには、社内各層の従業員にセルフ・キャリアドックの意義について理解を促し、円滑な導入に向け社内の意識醸成を図ることが重要です。
具体的には、
- 現場管理職の理解
- 従業員の理解
- 社内体制の整備(推進責任者の決定や社内規定の整備)
が必要となります。
キャリアコンサルタントの確保
セルフ・キャリアドックにおける中心となるのは、国家資格を持ったキャリアコンサルタントに夜キャリアコンサルティングとキャリア研修です。
そのため、これらを担うキャリアコンサルタントの育成、もしくは確保が必要不可欠な重要事項となります。
キャリアコンサルタントには、大きく分けて
- 社内キャリアコンサルタント
- 社外キャリアコンサルタント
の2種類があります。
どちらで行っても問題はありませんが、どのようなキャリアコンサルタントを起用するかはセルフ・キャリアドックの質を左右する重要事項です。
そのため、組織体制を考慮したうえで最適なキャリアコンサルタントを確保する必要があります。
社内キャリアコンサルタント
社内の従業員がキャリアコンサルタントとしてキャリアコンサルティングを行う、もしくはキャリアコンサルタントを新たに自社で雇用して「社内キャリアコンサルタント」として配置する方法です。
社員を起用する場合は誰でも良いわけではなく、国家資格キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能検定(1級・2級)のいずれかを保有していることが必要条件となります。
その場合、主に人事部門な方がキャリアコンサルタントとしての業務を兼任するか、もしくは「キャリアコンサルティング課」のように専門部署を設置することになると思いますが、対象従業員と二重関係にならないように注意が必要です。
社外キャリアコンサルタント
もう一つのキャリアコンサルタントを確保する方法として、「社外キャリアコンサルタント」の配置が考えられます。
社内キャリアコンサルタントと同様に、 国家資格キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能検定(1級・2級)のいずれかを保有していることが必要条件となります 。
加えて、企業独自のの経営目的や経営戦略、人材育成ビジョンや人材育成計画、人材育成に関する現状の課題等をキャリアコンサルタントに事前に十分に理解してもらう必要があります。
そのため、社外キャリアコンサルタントを活用する場合には、情報共有やすり合わせのために事前に入念な打ち合わせが必要であるほか、セルフ・キャリアドック導入後も定期的にコミュニケーションをとると良いでしょう。
▽社外のキャリアコンサルタントを活用したい際はコチラ
セルフ・キャリアドック導入のために役立つ資料
最後に、より深くセルフキャリアドックのことを学びたいという方のために、参考になる書籍や資料をご紹介いたします。
セルフ・キャリアドック入門
文字通り、セルフ・キャリアドックの基本的な考え方を抑えられる1冊です。
厚労省の方針なども併記されているので、セルフ・キャリアドック導入を検討するための最初の1冊にオススメです。
セルフ・キャリアドック実践
「セルフ・キャリアドック入門」を読んで、具体的に自社にどうやって導入をすればよいのか?を検討する際にオススメの書籍です。
個人的には、まだまだセルフ・キャリアドック導入の事例が身近になく困っていた中で、様々な気づきを与えてくれる1冊でした。
まとめ
セルフ・キャリアドックは導入することで企業の「人」に関わる課題を解決するきっかけとなる仕組みです。
しかし、導入のためには経営者のコミットメントやキャリアコンサルタントの確保が必須条件となるため、決して簡単ではありません。
少しでも興味をもってくれた方は、セルフキャリアドック導入の第一歩として、是非ご自身もキャリアコンサルタントの資格取得を目指していただけると幸いです。