介護職として働いている人であれば「認知症介護基礎研修の義務化はいつからだろう?」「受講しないと介護職として働けないの?」と考えている人も多いでしょう。
このような疑問を持っている人の多くは、資格なしで介護現場で働いている、もしくはこれから介護の業界で働こうとしているのではないでしょうか?介護に関する資格や研修は、さまざまな種類があり、介護業界以外の人からすると、違いがわからないといった人もいるでしょう。
本記事では、認知症介護基礎研修について詳しく解説しながら、義務化の背景や受講方法、費用などについても紹介します。また研修を受けた後のキャリアプランについても触れているので、これから介護の現場で働きたい人や、資格を持たずに働いている人は、ぜひ参考にしてみてください。
認知症介護基礎研修とは
認知症介護基礎研修とは、2015年に制定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」をもとに創立された、介護現場で最低限必要な認知症介護における基礎的な理解や介助方法が学べる研修です。
認知症ケア能力は、介護現場では必要不可欠なスキルです。
なぜなら、介護施設に入居している要介護者の奥が認知症を患っているため、認知症に関する基本的な知識がないことで、現場の認知症患者はもちろん、対応する介護職員にも大きな負担がかかります。
そこで作られたのが「認知症介護基礎研修」で、認知症に関する基本を学ぶことで介護の質向上が期待される研修となっています。
認知症介護基礎研修が作られた理由
認知症介護基礎研修が創設された理由は、これまでは認知症ケアに関する基礎的な研修が存在していなかったからです。
以前は認知症サポーター養成講座という認知症の基礎が学べるものはありましたが、あくまで一般市民を対象としており、介護職向けの研修ではありませんでした。
また介護の入門的な資格として介護職員初任者研修もありましたが、こちらの講義内容は介護全般を学ぶためのものであり、認知症介護に特化した内容ではありませんでした。
そこで、認知症患者のさらなる増加に対応するため、2015年に制定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」をもと作られたのが、「認知症介護基礎研修」です。
介護をする人される人の両者の負担軽減のためにも、認知症に特化した入門的な研修は重要な役割を担っていくことが期待されています。
認知症介護基礎研修の義務化対応の期限
認知症介護基礎研修は主に無資格の介護職員を対象として、2021年4月に介護報酬の改訂にともない義務化されました。
義務化の背景には、高齢化率の上昇とともに認知症患者が増えていることが挙げられます。
厚生労働省が発表したデータによると、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると予想されており、今後ますます認知症ケアの質の向上が求められるでしょう。
ここでは、認知症介護基礎研修の義務化の目的を考え、あらためて研修の重要性についても触れていきます。また完全義務化までに設けられた、経過措置(猶予期間)についても解説します。
義務化の目的について
認知症介護基礎研修の義務化の目的は、以下のとおりです。
高齢化率の上昇と認知症患者の増加は比例します。なぜなら、認知症のもっとも大きな要因として加齢が挙げられるからです。認知症患者の増加が予想される中で、認知症介護基礎研修の義務化は重要になってきます。
またベテランの介護職ですら苦労する認知症ケアの場合、未経験ではじめて介護の仕事をする人にとっては、戸惑いや混乱が生じます。
先述のとおり、私も無資格未経験で介護職をはじめましたが、認知症に関する研修を少しでも受けていたら、もっと適切なケアが提供できていたのではと感じます。
とくに認知症ケアにおいてはスキルだけでなく、思いやりやこまかい気配りが大切になってきます。具体的なスキルは学べなくても、研修を受けることで認知症患者の気持ちを考えるきっかけになるだけでも、研修の価値は十分高いと言えるでしょう。
完全義務化までは経過措置あり
前述のとおり、認知症介護基礎研修の義務化は2021年4月からとなりました。しかし義務化したからといって、すぐに全ての無資格の介護職員が受ける必要はありません。
2021年4月〜2024年3月までは経過措置の期間とされており、それまでは認知症介護基礎研修の受講は努力義務です。現時点で研修を受けていなくても、働けなくなるわけではないので安心してください。
また義務化においては、原則介護事業所に課せられています。
そのため2024年3月以降も、無資格の介護職員に対して研修を受けさせなかった事業所は、行政指導の対象になる可能性があります。
だからといって、無資格の介護職員個人が何もしなくていいわけではありません。現時点で無資格であり研修を受講する必要があるのであれば、期限まで残り約1年(2023年4月現在)であることを考えると、自ら研修内容を調べて積極的に申し込む姿勢が求められるでしょう。
認知症介護基礎研修の内容
認知症介護基礎研修は、都道府県ごとに自治体や各種団体によって開催されるため、開催スケジュールや費用などが異なります。
詳しい内容については、各自治体に問い合わせてみるといいでしょう。
ここでは、認知症介護基礎研修の研修時間や受講方法、必要な費用について、いくつかの自治体を例に紹介します。認知症介護基礎研修を受けようと考えている方は参考になる内容なので、ぜひご覧ください。
受講の対象者
認知症介護基礎研修の受講対象者は「認知症介護にかかわるすべての介護従事者」です。ただし、一定の資格を持っている人は受講義務の対象外となります。
研修が創設された目的の中に、認知症介護に関する基礎的な内容を広く普及させることが含まれているため、シンプルな受講要件となっています。
訪問介護から特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設系介護まで、すべての介護事業所で働く介護従事者が受講可能です。そのため、新人だけでなくベテランの介護職員も、認知症介護をあらためて学ぶ機会にしてみるといいでしょう。
私自身も17年間、認知症介護に携わっていますが、日々の業務に追われ適切なケアを見失うことがあります。
認知症介護基礎研修の義務化をきっかけに、すべての介護に携わる人が今一度認知症について深く考える機会になれば、今後の認知症ケアの質の向上にもつながるでしょう。
研修時間と講義内容
認知症介護基礎研修は、以下のような講義と演習で構成されており、6時間の研修が1日で修了するスケジュールになっています。
- 認知症の人を取り巻く現状
- 認知症の人を理解するために必要な基礎的知識
- 具体的ケアを提供する時の判断基準となる考え方
- 認知症ケアの基礎的技術に関する知識
- 認知症の人との基本的なコミュニケーション方法
- 不適切なケアの理解と回避方法
- 病態・症状等を理解したケアの選択
- 行動・心理症状(BPSD)を理解したケアの選択と工夫
- 自事業所の状況や自身のこれまでのケアの振り返り
上記の講義と演習を合わせた6時間の中に、認知症介護の基礎知識と実践方法が詰まっているため、集中的に認知症について学ぶことが出来ます。
とくに、コミュニケーション方法や不適切なケアなどは、介護未経験者の場合はわかりません。介護施設によっては不適切なケアが常態化している場合も考えられます。
そのため、認知症ケアにおいて重要な、適切なコミュニケーションが学べる研修は、大変貴重な機会と言えるでしょう。
参考:認知症介護情報ネットワーク|認知症介護基礎研修シラバス
受講方法と費用
受講方法や費用については、研修を実施する自治体や団体によって異なります。ここでは、東京都(八王子市を除く)を例に、受講方法と費用を見ていきましょう。
申し込み方法 | 「認知症介護研究・研修仙台センター」にWebから個人で直接申し込む |
受講方法 | eラーニングでの受講 ※eラーニングとは、パソコンやタブレットで講義動画を見た後に、かんたんなミニテストを受ける学習方法です |
受講費用 | 3,000円(税込) |
東京都以外の以下の自治体も、基本的に同様の受講方法と費用になっています。
そのほかの自治体については「〇〇(お住まいの地域名)+認知症介護基礎研修」で検索すると、詳しい内容を確認できます。
受講が免除されるケース
認知症介護基礎研修の受講が免除されるケースは、以下の2つです。
- 該当する医療・福祉関連の資格を持っている
- 養成施設等で認知症に関する科目を受講している
上記の要件に該当する資格を、以下にまとめたのでご覧ください。
- 介護福祉士
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
- 理学療法士
- 作業療法士
- 言語聴覚士
- 介護支援専門員
- 実務者研修
- 介護職員初任者研修
- 認知症介護実践者研修
- 管理栄養士
- あん摩マッサージ師 など
- 医師
- 歯科医師
- 薬剤師
- 看護師
- 准看護師
参考:山口県|認知症介護基礎研修の受講義務免除資格等について
また、以下のような場合も受講対象外となります。
- 養成施設において認知症に関する科目を受講済み
- 福祉系学校を卒業している
- 人員配置の基準において、従業者の員数として算定されない人や、直接介護の業務に携わる可能性がない
以上のことを参考に、自分が受講免除の対象になるか確認してみてください。
基本的に「介護職」に人であれば、無資格の人は認知症介護基礎研修を修了する義務が発生するといえますが、「介護職員初任者研修」を取得して認知症介護基礎研修の免除を狙うのもおススメです。
認知症介護基礎研修を修了した後のキャリアプラン
認知症介護基礎研修を修了した後のキャリアプランとして、以下の資格を順番に取得するのがおすすめです。
- 介護職員初任者研修
- 実務者研修
- 介護福祉士
それぞれの資格について詳しく解説します。介護現場でキャリアアップしたい人にとっては、どれも重要な資格になるので、参考にしてみてください。
介護職員初任者研修
介護職員初任者研修は、認知症に限らず介護の基本的な知識や実践スキルを学べる研修で、介護職の入門的な資格です。
認知症介護基礎研修はあくまで認知症ケアのみを学ぶ研修であり、介護の基礎知識や技術を学べるわけではありません。内容も認知症介護基礎研修は1日6時間で終了するのに対して、介護職員初任者研修は約3ヶ月で130時間の研修を受けます。
認知症介護基礎研修を終了した後、より実践的な介護スキルを身に付けたい人は、介護職員初任者研修を受講するといいでしょう。
※介護職員初任者研修については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
実務者研修
実務者研修は、介護職員初任者研修の上位資格と位置付けられており、より実践的なスキルが学べる資格です。
実務者研修は、介護の国家資格である「介護福祉士」を受験要件となっており、介護福祉士を目指す人は必ず取得する必要があります。そのため、無資格から介護福祉士の取得を目指す場合は、介護職員初任者研修を受けずに、最初から実務者研修に挑戦する選択も可能です。
ただ初心者にとっては難しく感じる可能性もあるため、不安な人はまず介護職員初任者研修の受講がおすすめです。介護職員初任者研修を修了すれば、実務者研修の一部が免除になるため、どちらから受講しても、大きな負担の差はないでしょう。
介護福祉士(国家資格)
介護福祉士は現場の介護職唯一の国家資格で、介護のスペシャリストであることを証明してくれる資格です。
認知症をはじめとした介護の知識はもちろん、高度な介護技術が求められるため、以下のような受験資格が設けられています。
上記は、介護職を未経験から始めた人が実務経験を積んで受けるルートで、その他にも福祉系の高校や専門学校などの養成施設を卒業するルートもありますので、自身が対象になる方はしっかりチェックしておきましょう。
認知症介護基礎研修以外の認知症ケアに関する資格
認知症介護基礎研修は認知症に関する研修の土台であり、研修修了後に実務経験を積むことで、さらにレベルの高い認知症介護の研修を受講できるようになります。
認知症に関する上位資格としては、以下のような研修や資格があります。
認知症ケアに関する上位資格
- 認知症介護実践者研修
- 認知症介護指導者養成研修
- 認知症ケア専門士
現場の介護職にとって認知症介護の向上は、今後さらに求められてくることが予想されます。
そのため、上記のような研修はスキルアップや自身の専門性向上のきっかけにしていくことが可能です。
それぞれ詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
認知症介護実践者研修
認知症介護実践者研修は、介護に携わる者および、その指導的立場にある者を対象に、認知症ケアの質の向上を図り、認知症に関する専門職を養成する研修です。
認知症介護実践者研修の基本的な内容は、以下のとおりです。
研修期間 | 5日間の研修と約4週間の職場実習 |
対象者 | 認知症ケアの経験が2年以上の者 |
費用 | 2万円ほど |
また認知症支援のチームリーダーとしての指導力が身につく「認知症介護実践リーダー研修」もあり、以下のような内容になっています。
研修期間 | 6日間の研修と約4週間の職場実習 |
対象者 | 認知症介護実践研修修了後1年以上経過している者 認知症ケアの経験が5年以上の者 |
費用 | 2万円ほど |
費用については自治体によって異なるため、受講を検討している人は事前に各自治体に確認しましょう。
ちなみに筆者である私も認知症介護実践者研修およびリーダ研修は修了しており、費用に関して自己負担はありませんでした。原則介護事業所で働いていることが受講条件になっているため、費用は事業所負担になることが多いでしょう。
認知症介護指導者養成研修
認知症介護実践研修が現場の認知症ケアに役立つ内容であったのに対して、認知症介護指導者養成研修は、認知症ケアの指導をする人向けの研修です。
認知症介護指導者養成研修の主な概要は、以下のとおりです。
研修期間 | 15日間の研修と約6週間の職場実習 |
対象者 | 医師や看護師、介護福祉士や社会福祉士などの対象の資格を有している者 福祉系大学や養成学校等で指導的立場にある者 認知症介護実践リーダー研修を修了し、リーダーとして5年以上の介護実務経験がある者 地域ケアを推進する役割を担うことが見込まれている者 など。 |
費用 | 23万円(東京都の場合は自治体が全額負担してくれる) |
認知症介護指導者養成研修の修了者は介護職員だけでなく、地域の住民に対しても研修を通じて指導できることが特徴です。
そのため、認知症ケアの普及活動に携わりたい人は、研修の受講をぜひ検討してみましょう。
認知症ケア専門士
認知症ケア専門士は、認知症介護に携わる介護職員の自己研磨および生涯学習の機会提供を目的に設けられた資格です。
生涯学習という言葉があるように、認知症ケア専門士の資格は更新制となっています。そのため、認知症ケアについて学び続けたいという人におすすめです。
認知症ケア専門士については、以下を参考にしてください。
試験内容 | ▽1次試験 認知症ケアの基礎 認知症ケアの実際Ⅰ総論 認知症ケアの実際Ⅱ各論 認知症ケアにおける社会資源 ▽2次試験 論述試験 |
受験資格 | 3年以上の認知症ケアの実務経験を有する者 |
費用 | 1次試験:12,000円(3,000円×4分野) 2次試験:8,000円 資格認定手数料:15,000円 |
ちなみに私の職場では認知症ケア専門士を取得すると、資格手当がもらえるため給料がアップします。
手当については職場によって異なりますが、認知症ケア専門士は認知症ケアのスペシャリストである証明にもなるため、キャリアアップにも役立つでしょう。
認知症介護基礎研修の義務化の必要性について
最後に、認知症介護基礎研修の義務化の必要性について、現役介護福祉士である筆者の意見をお伝えさせていただきます。
結論から言わせていただくと、認知症介護基礎研修の義務化は以下のような理由から必要であると考えています。
認知症介護基礎研修の義務化は以下のような理由から必要
- 認知症ケアには正解はないが不正解がある
- 不正解の認知症ケアは確実にマイナスである
- 認知症ケアを学ぶことは介護職の負担軽減になる
- 自分自身が未経験無資格で介護をはじめて苦労した
- 今後ますます認知症の患者が増えることが予想される
認知症ケアの正解・不正解は、私たちが普段人と関わる中でやってはいけないことと共通しています。
たとえば、「相手のことを否定しない」ということや「乱暴な口調で話しかけない」コミュニケーションの基本的な部分が重要で、自分がされて嫌なことはしないことが大切です。
頭ではわかっていても、いざ現場で認知症ケアを行う場合には、普段当たり前にできていることができなくなります。だからこそ、認知症介護に関する研修を通じて、適切な認知症ケアについて本気で考えることが必要でしょう。
認知症介護基礎研修の義務化は、今後の日本の介護を支える土台になることを願っています。
認知症介護基礎研修の義務化まとめ
今回は、認知症介護基礎研修の義務化について、現役介護職の視点も含めながら解説しました。本記事の要約は以下の通りです。
認知症介護基礎研修は、認知症ケアの基礎を学べるため、無資格で経験の浅い介護職員にとって効果的な研修です。2024年4月から無資格の介護職員に対して義務化されるため、今のうちに受講しておくといいでしょう。
また、介護職員初任者研修や介護福祉士など、その後のキャリアアップの土台にもなります。認知症介護の基礎が学べる機会として、無資格だけでなくベテランの介護職員もあらためて認知症ケアを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。