超高齢化社会に伴う労働力不足によって外国人労働者への需要が高まり、それに伴って日本語教師のニーズも高まっています。
日本語教師は2024年4月から国家資格制度が始まったことでも注目されていますが、「日本語教師はやめた方がいい」「日本語教師の資格は取っても意味が無い」という声も有ります。
本記事では、「日本語教師はやめとけ」と言われる理由や将来性について解説していきます。
日本語教師はやめたほうがいいと言われる理由
日本語教師は国内、もしくは海外において日本語学校等で日本語と日本の文化を教える非常に重要な職業です。教員免許や英語スキルが無くても社会人から挑戦できるため、人気の職業となっています。
ですが、職業としてみるとよい点ばかりではなく、いくつかのデメリットがあり、それらが「日本語教師はやめたほうがいい」と言われる理由になっています。
日本語教師はやめたほうがいいと言われる主な理由は以下の通りです。
日本語教師はやめたほうがいいと言われる理由
- 年収が高くない
- 仕事の量が多い
- 正社員の求人が少ない
- 社会情勢に左右されやすい
- 日本語教育能力検定に合格しても就職できない場合がある
それぞれ詳しく解説していきます。
年収が高くない
日本語教師は決して高収入な仕事ではありません。
文化庁の調査(参照:文化庁「令和2年度日本語教師の資格創設に係る状況調査」)によれば、日本語教師の年収は300~400万円未満が約36.8%と最も多く、この数字からも年収は高くないことが分かります。
常勤日本語教師の年収別分布 | 割合 |
---|---|
100万円未満 | 1.2% |
100万円~200万円未満 | 2.1% |
200万円~300万円未満 | 21.3% |
300万円~400万円未満 | 36.8% |
400万円~500万円未満 | 15.4% |
500万円~600万円未満 | 6.7% |
600万円~700万円未満 | 3.2% |
700万円~800万円未満 | 3.5% |
800万円~900万円未満 | 3.0% |
900万円~1000万円未満 | 2.4% |
1000万円以上 | 4.4% |
上表を見ると分かるように、ボリュームゾーンは年収200~500万円であることが分かります。年収1,000万円を超える日本語教師も4.4%いることが分かりますが、校長・副校長等の管理職としての仕事をしている人が多いと想定されます。
また、海外で日本語教師として働く場合は現地の物価に合わせた収入となります。日本語教師のニーズが高いアジア圏の場合、月収5~10万円程度が目安となります。
日本語教師になるには養成講座の受講、もしくは日本語教育能力検定の合格等が必要となりますが、ハードルの割に年収は高くないため、「日本語教師はやめたほうがいい」と言われる要因になっています。
仕事の量が多い
「日本語教師はやめとけ」と言われてしまう理由の一つとして、「仕事量が多い」ことが挙げられます。
日本語教師の仕事は、授業の中で日本語や日本の文化を教えるだけではなく、授業の準備や企画、クラスの運営にも多くの時間を使います。特に日本語教師として新人の頃は授業の準備に追われ、時間に余裕がなくなりがちです。
近年はICTの導入により授業準備がスムーズに出来るようになった日本語学校も多いですが、学校によってはDXが進んでいないケースも多々あります。
授業以外の仕事量が多く、時間の余裕がなくなりがちな点が「日本語教師はやめたほうがいい」と言われる理由の一つといえるでしょう。
正社員の求人が少ない
日本語教師は正社員の求人が少ない業界です。
日本語教師は常勤よりも非常勤の働き方の人が多く、文化庁の調査(参照:文化庁「令和2年度日本語教師の資格創設に係る状況調査」)によれば非常勤の数は常勤の約3倍となっています。
雇用形態 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
常勤 | 5,096人 | 25.1% |
非常勤 | 15,184人 | 74.9% |
日本語教師は社会情勢によって需要が増減しやすい(詳細は後述)ため、専任の常勤職員の数を押さえつつ非常勤講師で調整する学校が多いようです。
日本語教師養成講座を修了や資格を取得しても正社員として働くハードルが高いため、「日本語教師はやめた方がいい」と言われる理由の一つとなっています。
社会情勢に左右されやすい
日本語教師の仕事は社会情勢に左右されやすいという特徴があります。
例えば、新型の感染症が流行した際などは留学生をはじめとした外国人渡航者が制限され、日本語学校の経営に大きな影響を与えました。
今後も同様に、国の施策次第では日本語を学ぶ外国人の渡航に影響する可能性が高く、安定した職業とは言えません。
収入や雇用の不安定さに対応するためには、正社員としての転職先を探しつつ、オンラインで日本語を教える等の副業を行い、収入の柱を複数持つ必要があります。
日本語教師養成講座の費用が高い
日本語教師になるための代表的なルートのひとつとして、「日本語教師養成講座を修了する」方法が挙げられますが、その受講料は非常に高額です。
日本語教師養成講座が文化庁に届け出受理されるためには「420時間以上のカリキュラム」が必須となっており、結果的に受講料は非常に高額(約50~70万円)となっています。
社会人が日本語教師としてのスキルを身に付けるためには、養成講座は最善の選択肢のひとつですが、この費用負担が大きい点が「日本語教師はやめた方がいい」と言われる理由のひとつです。
日本語教育能力検定試験に合格しても就職できない場合がある
日本語教師には国家資格である「登録日本語教員」以外にも、「日本語教育能力検定試験」があります。
日本語教育能力検定試験はその名の通り、「日本語教育を行うための知識」を問う試験になっており、合格率20~25%の難関資格となっています。
養成講座を修了していなくても日本語教育能力検定試験に合格すれば、国内・国外の日本語学校で働くことが可能です。ですが、実際の就職面接の際は「模擬授業」による実務スキルの確認が行われるため、検定試験に合格していても実務スキルが一定に達していない場合は就職できないケースも有るので注意が必要です。
このように、日本語教育能力検定試験という難関資格を取得しても就職できないケースがあるため、「日本語教師は資格を取っても意味が無い」と言われることがあります。
日本語教師の将来性は?
「日本語教師はやめた方がいい」「資格を取っても意味が無い」と言われる理由について解説してきましたが、日本語教師の将来性は実際どうなのでしょうか?
日本語教育業界を取り巻く環境としては以下の通りです。
日本語教育業界を取り巻く環境
- 日本語学習者の推移
- 外国人受け入れニーズの拡大
- 日本語教師の国家資格化に伴う質の向上
それぞれ詳しく解説していきます。
日本語学習者の推移
調査年度 | 日本語学習者数(人) |
---|---|
2003年 | 2,356,745 |
2006年 | 2,979,820 |
2009年 | 3,651,232 |
2012年 | 3,985,669 |
2015年 | 3,655,024 |
2018年 | 3,851,774 |
2021年 | 3,794,714 |
上表は2003年以降の日本語学習者の推移となります。
上記を見ると分かるように、日本語学習者の数は2012年をピーク(3,985,669)に、2015年は3,655,024人へ減少し、その後は横ばいが続いています。
日本語学習者数は日本語教師の求人数に直結するため、今後も横ばいが続く可能性があるでしょう。
外国人受け入れニーズの拡大
日本では少子高齢化に伴い、深刻な労働力不足が続いています。
結果的に外国人労働者に頼らなければならない状況は今後も続くことが想定され、在留外国人の人数も増え続けることが見込まれます。
文化庁の調査では、中小企業の約25.6%が外国人材を「既に受け入れている」と回答しており、この数字は年々増加(下表参照)しています。
年度 | 既に受入済み | 今後受入予定 | 検討中 | 受入予定なし |
---|---|---|---|---|
2019年 | 19.3% | 6.3% | 25.2% | 48.0% |
2020年 | 23.5% | 5.5% | 19.7% | 50.5% |
2021年 | 25.6% | 5.2% | 16.1% | 52.0% |
参照:文化庁「中小企業における外国人材の活躍と日本語教育の必要性について」
このことから、国内における日本語教育の需要は、日本語学校における留学生への教育領域だけではななく、企業向けの研修等も含め、今後も高まり続けることが想定されます。
日本語教師の国家資格化に伴う質の向上
2024年4月から新たに「日本語教師の国家資格制度」が始まりました。
日本語教師の国家資格化(登録日本語教員)に伴い、質の向上が期待されるものの、それらが待遇改善に反映される仕組みは不透明な状態です。
登録日本語教員に誕生に伴い、「日本の利益に貢献する職業」であると認知されたものの、働き方や待遇へ反映されていくかどうかは未定といえるでしょう。
日本語教師に向いている人の特徴
ここまで「日本語教師はやめたほうがいい」と言われる理由や日本語教育業界の将来性について解説してきましたが、実際に日本語教師に向いている人はどんな人なのでしょうか?
ここでは、日本語教師に向いている人の特徴を解説していきます
日本語教師に向いている人の特徴
- 海外で働きたい人
- 年収にこだわりがない人
- ワークライフバランスを重視している人
- やりがいを重視している人
- 手に職をつけて働きたい人
それぞれの特徴について、詳しく解説していきます。
海外で働きたい人
日本語教師は海外で働きたい人におすすめの職業といえます。
海外の中でも、中国やベトナム、タイやフィリピンなどのアジア圏の国々は日本語教師の需要が高く、比較的就職しやすいといえます。
ただし、海外で日本語教師として働く場合は現地の相場に合わせた収入となるため、物価の安い地域の場合は円に換算した場合には収入が比較的低くなってしまう点に注意しておきましょう。
年収にこだわりがない人
年収に大きなこだわりが無い人も、日本語教師という職業が向いているといえるでしょう。
前述した通り、日本語教師の年収は決して高くありません。そのため、年収に大きなこだわりが無く、働き方ややりがいを重視する人の方が向いているといえるでしょう。
ただし、日本語教師として年収を上げる方法が無いわけではありません。日本語学校で働く場合、主なキャリアパスとしてマスは「教務主任」を目指し、その後、副校長、校長を目指していくのが王道のキャリアアップルートといえます。
また、日本語教師として十分にキャリアを積むことで、転職によって年収アップを目指すことも可能となります。
ワークライフバランスを重視している人
ワークライフバランスを重視している人も、日本語教師に向いているといえます。
前述の通り、日本語教師は正社員の求人が少なく、約7割が非常勤勤務となっています。非常勤講師であれば勤務時間や日数について融通が利きやすいため、プライベートト仕事のバランスを自身で取りやすい働き方といえるでしょう。
また、非常勤の日本語教師として勤めつつ、日本語を教える副業等を行うことで、収入を確保しつつもスケジュールを自身に合わせていくことが出来ます。
やりがいを重視している人
やりがいを重視している人には日本語教師が向いているといえます。
日本語教師は、日本語を学ぶ生徒との信頼関係を気づき、成長を支えることが出来る非常にやりがいのある仕事です。
国内の日本語学校で働く場合、クラス内の学生の国籍がバラバラということも少なくありません。文化も言語も違う学習者に対して、日本語と日本の文化や商習慣を教える仕事は、日本社会を陰から支えるやりがいのある仕事といえます。
手に職をつけて働きたい人
手に職をつけて働きたいと考えている人にも、日本語教師はオススメの職業です。
よく誤解されますが、日本語教師は「日本語が分かる」だけではできません。国内の日本語学校で働く場合、言語や文化が違う相手に対して、日本語だけを使って日本語を教える方法(直接法)が主流になります。
これは一朝一夕に身につくわけではなく、言語教育スキルを前提に、実践を積むことで身に付けられる能力です。そのため、日本語教師として経験を積むことで、くいっぱぐれのないスキルを身に付けることが出来ます。
日本語教師はやめたほうがいい人の特徴
日本語教師は誰にでも向いている職業ではありません。以下の特徴に当てはまる方は、日本語教師はやめておいた方がいいといえるでしょう。
日本語教師はやめたほうがいい人の特徴
- 収入面にこだわりがある人
- 安定した働き方をしたい人
それぞれ解説していきます。
収入面にこだわりがある人
収入面にこだわりがある人には、残念ながらあまり日本語教師が向いていません。
本記事で既にお伝えしたように、日本語教師の年収は高くありません。
年収を上げる手段として、教務主任や副校長などへのキャリアアップを目指す方法がありますが、時間がかかるうえに自分一人でコントロールできない要素(役職が空かない等)があります。
そのため、収入面に大きなこだわりがある人は、仕事としての日本語教師に向いていないといえます。
ただし、サラリーマンとしての仕事をしつつ、平日にボランティアや副業で日本語教師をすることも可能です。そのため、「日本語教師と収入を両立させたい」と考えている人は、自身に合った働き方を模索してみるとよいでしょう。
安定した働き方をしたい人
安定した働き方を重視している人も場合も、日本語教師に仕事は向いていないといえます。
日本語教師は「手に職」系の資格といえますが、非正規雇用が多いことに加え、政策によるニーズの影響を受けやすい職業です。そのため、雇用の安定を求める方や、一つの職場で長く働きたい人にはあまり向いていない職業です。
日本語教師の就職先
日本語教師は国内外を問わず様々な領域で活躍する専門職です。日本語教師が活躍する主な就職先は以下の通りです。
日本語教師の主な就職先
- 国内の日本語学校
- 海外の日本語学校
- 企業内の日本語教師
- オンライン日本語教室
上記の就職先について、詳しく解説していきます。
国内の日本語学校
日本語教師として働く場合、「国内の日本語学校」が最も一般的な就職先です。
国内の日本語学校(法務省告示の日本語教育機関)で働く場合は、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
海外の日本語学校で働く目標がある方も、最初は国内の日本語学校で働くケースが多く、登竜門のような位置づけといえるでしょう。
海外の日本語学校
海外に日本語学校で働く場合、国内の法務省告示の日本語教育機関に様な条件はありません。現地の教育機関に採用さえされれば働くことが出来ます。
しかし、日本語教師として働く国や地域によって異なるものの、日本語教師としての資格や経験が求められるケースは多いので、注意しておきましょう。
企業内の日本語教師
近年ニーズが高まっている日本語教師の働き方のひとつとして、「企業内講師」があります。
現在、多くの中小企業で外国人労働者の受け入れがすすんでおり、生産性の改善やコミュニケーションの円滑化のために日本語教育研修の需要が高まっています。
企業内に常駐の日本語教師として働くケースは少なく、研修会社や日本語教育機関(日本語学校等)から派遣されるケースが多いようです。
オンライン日本語教室
日本語教師の中には、副業としてオンラインで日本語を教えている人もいます。
オンライン日本語教室であればマンツーマンで教えることが出来ることに加え、空き時間を活用して収入を得ることが出来ます。
オンラインで日本語を教える場合は、語学学習プラットフォームなどに登録して生徒を募集するのがオススメです。
日本語教師はやめたほうがいいと言われる理由まとめ
日本語教師は年収の低さや雇用の不安定さから「日本語教師はやめとけ」「資格を取っても意味が無い」と言われてしまうことがあります。
しかし、外国語を母国語とする方に日本語と日本の文化を教える日本語教師、非常にやりがいのある仕事です。
興味がある方は、日本語教師としての働き方や将来性について、詳しく調べてみるとよいでしょう。